まずはこの文字をご覧ください。
「錆地塗十八間筋兜・鉄黒漆塗横矧五枚胴具足」
「六二間小星兜・金本小札色々威二枚胴具足」
「鉄漆黒塗突盃形総覆輪筋兜・赤糸威丸胴具足」
これらは甲冑の名前です。
呪文のようですね。
けど、これも一つ紐解いていけば、写真がなくてもどんな形の鎧なのかわかってしまう呪文なのです。
さらには、ご自身で作り上げた甲冑にモこのような名前がつけることが出来るのです!
その呪文の意味を解くべく
戦国時代の甲冑の、ごくごく基礎知識に関して簡単に解説いたします。
なお、本文中の写真は紀の国屋さんより提供いただいてます。
まずは、戦国時代の甲冑の呼び方です。
平安時代や、源平合戦の頃の甲冑を大鎧といい、戦国時代の甲冑は戦国期のリアルタイムに作られたから「当世具足(とうせいぐそく)」と呼びます。「当世」とは現代と言う意味なので、今なら「現代甲冑」と言うのと同じですね。
では源平合戦の時代とどう変化したのか。
戦の様子が変わったのです。
鉄砲の導入が大きな要因となり、鉄砲に耐えられる甲冑が必須となってきたわけです。また、騎馬戦から馬を降りた戦が主流となり、機動性も必要だったようです。
大将も馬で戦場に行くものの、いざとなれば馬を降りて戦ったりしたようです。
当世具足には急所が狙われないよう隙間をなるべくなくそうと色々と工夫され、かつ、動きやすさも重要視した結果として、生まれました。
次に具足のおおまかな名前です。
防具細部の名前、金具の名前、鎖の種類など詳しく解説すればこの何十倍にも膨れ上がりますので、よく使う言葉だけをあげました。
1,立物(たてもの)/兜の飾り
前にあれば前立て、左右にあれば脇立、薄ろにあれば後立
2,兜鉢(かぶとばち)/帽子の部分
①頭の形なので頭形(ずなり)兜、
②筋が入っているので筋(すじ)兜、
③桃の形なので桃形(ももなり)兜、
④鬼の金棒みたいに尖ったギザギザがついている星兜などがある
筋兜は、その筋の数で八筋兜、三十二筋兜、という呼び方をする
他にも変わり兜やとっぱい型など、かなりの種類がある
直に鉄の兜をかぶったら痛いので兜鉢の内側には浮張・百重刺(うけばり・ももえざし)と呼ばれるものがある※作り方は兜セットにあります
3,吹返(ふきかえし)/顔面への矢の攻撃を防ぐ
大鎧時代は大きかったが当世具足ではサイズが小さくなり、防御の意味は余り果たしていないものも多い
胴の種類を上げていきます。
◆雪の下胴◆
1枚の鉄板でできており、仙台藩で使用されていたことから仙台胴とも呼ばれる。
◆桶側胴◆
横板の上下を順に重ねて鋲で留めたもの。
桶のような形なので桶側胴という。
桶川胴、桶革胴とも書く。
丈夫で戦国期から江戸時代にかけて多く用いられた胴である。
◆縦矧胴◆
横矧胴の縦バージョン。一枚の鉄を縦につないである。
たてびきと呼ぶ。
◆仏胴◆
桶側胴の表面の継ぎ目を漆を塗って平にしたもの。
韋(かわ)※を貼ったものを韋包仏胴と呼ぶ。
雪の下胴の一枚胴とは見た目は似ているが構造が違う。
◆最上胴◆
横板の上下を順に重ねて糸で素掛威(すがけおどし)にしたもの。
出羽最上地方(山形県)で流行した形式で、四カ所を蝶番で止めている。
◆仏胴胸取◆
胸取仏胴とも言う。
仏胴に胸板を糸威でつないだもの。
胸板とは、正面上部のパーツである。
※甲冑キットは制作に応用性のあるこの見た目を採用。
ただし、桶側胴ではなく、一枚で作る。
※韋とは、獣のなめし革のこと
◆二枚胴◆
展開すると図のように二枚に分かれるので、二枚胴と呼ぶ。
◆五枚胴◆
展開すると図のように五枚に分かれるので、五枚胴と呼ぶ。
胴の作りは桶側胴だったり雪の下胴だったり、いろいろですが、三枚にわかれているのもは三枚胴、六枚なら六枚胴と言います。
それぞれを蝶番で留めてあり、持ち運ぶ際にはばらしてコンパクトに出来る利点があります。
一枚の場合のみ、丸胴と呼びます。
具足のパーツは鉄、革を用いています。
そのまんまでは錆びたり強度にも問題が出てきます。
そこでほとんどの甲冑は漆を塗って仕上げていきます。
代表的なのは「黒漆塗」で、黒い漆を塗ってツヤツヤに仕上げています。
黒漆塗の一例・兜は南蛮式
「朱漆」などもあります。
そして、鉄の風味を生かした仕上げの「錆地塗」などがあり、これも漆の一種です。
さらに塗装ではありませんが、韋を仕上げに使ったもの、熊毛などでフサフサに仕上げたものなどがあります。
威毛とは簡単に言うと、甲冑の草摺や袖などの板と板をつないでいる紐の部分のことで、材料は糸、韋(かわ)、布帛(ふはく)があります。
しげ部の甲冑制作では、糸=紐を使用します。
(革でも布でも、チャレンジして下さい!)
では、パッと見で大きく異なる糸(紐)の使い方を見てみましょう。
簡単に言うと、みっちりと隙間なく紐でつないだ状態の胴や草摺、袖です。
小札(こざね)という、ちっちゃいパーツをコツコツとつないでいくのが本来の毛引威ですが、戦国時代になると甲冑を着る武士の数が一気に増えました。もうやってられん!ということで、なんちゃって小札の波板城の一枚の板を上下につないでいたりします。
鉄の板が見える隙間の開いた威し方です。 甲冑制作キットではこの素懸威を制作します。
これまた、大辞典があるくらいに色の呼び名は無数にあります。
甲冑の呪文の話に戻りましょう。「色々威」「紺糸威」「赤絲威」などは、威毛(紐だと思って下さい)の色を表します。
「色々」は、いろんな色が使われています。
さてさて。
これで呪文の謎がほんの少しわかったと思います。最初の言葉を紐解いてみましょう。
① 「錆地塗十八間筋兜・鉄黒漆塗横矧五枚胴具足」
② 「六二間小星兜・金本小札色々威二枚胴具足」
③ 「鉄漆黒塗突盃形総覆輪筋兜・赤糸威丸胴具足」
② 「六二間小星兜・金本小札色々威二枚胴具足」
兜の筋が62本あって、その間に三角トゲトゲがついた星兜。
金色の小札に、糸はカラフルに何色も使用、蝶番を外せば2つに別れる胴です。
③ 「鉄漆黒塗突盃形総覆輪筋兜・赤糸威丸胴具足」
黒い鉄漆で塗った、突盃形と呼ばれる、てっぺんがとんがった兜の形で、兜鉢の下をぐるっと装飾品で覆った総覆輪と呼ばれる兜。赤い紐を使用した、丸胴(一枚胴形式)です。
実はこれ重要文化財の毛利輝元所用の赤糸威丸胴具足の解説なので、写真はありません。総覆輪の兜鉢の例を確認下さい。
いかがですか?
わかってしまうと、単純な話ですね。
最後に自作甲冑に名前をつけてみましょう。
兜は六十間の筋兜、六枚胴で糸は紺色、塗りは水性塗料ペンキ、材質はプラスチック(合成樹脂)。
これに名前をつけるのならば・・・。
黒樹脂水性塗六十間筋兜 紺糸威六枚胴具足」
銘は「しげ部・部長」で、いかがでしょう。
みなさんも頑張って作った甲冑に名前と銘をつけてはいかがでしょうか。
一層愛着がわき、合戦に望めるというものです!
さて、甲冑を作ってみたくなったら自分で作る甲冑キットがおすすめです。以下のコーナーから欲しい情報を探してみましょう。